Creator’s Lounge/宮坂香帆氏に聞く

宮坂香帆氏デビュー30周年インタビュー
少女まんが家として生きていく「ときめきを描き続ける秘訣」とは!?

 「Cheese!」本誌で『黒崎秘書に褒められたい』を、増刊「プレミアCheese!」では『薔薇色ノ約束』を同時連載中の宮坂香帆氏が、今年デビュー30周年を迎える。流行り廃りの激しい少女まんが界で、常にメインの連載陣として走り続けるために大切なこととは――。「ヒットの法則があるなら教えてほしい」と笑う宮坂氏に、あっという間だったという30年を振り返っていただいた。

【プロフィール】宮坂香帆(みやさか・かほ)

10月17日生まれ。千葉県出身。A型。デビュー作は『ジャングル☆ボーイ』(「少女コミック」1992年増刊11月15日号掲載)。代表作は『「彼」first love』『僕達は知ってしまった』『10万分の1』など。現在は「Cheese!」「プレミアCheese!」で活躍中。

●描くことが苦しかった新人時代

――1992年のデビューまでの道のりを教えてください。

宮坂香帆氏(以下敬称略):高校2年生のときに、小学館の新人コミック大賞に応募したのが初投稿です。一応担当さんがついたのですが、当時は学校が遠くて登下校だけで疲れ切ってしまい、あまり投稿できず…。そのせいで担当さんにはよく「本当にプロになる気あるの?」と言われていましたね。結局、本格的に描きはじめたのは高校を卒業してから。執筆に専念したいと親に頼みこんで、3年の猶予期間をもらったんです。「3年でデビューできなかったら、まんが家になるのは諦めて就職しろ」と。まさに背水の陣で、実家の店を手伝いながら投稿を重ね、3年の期限も終わろうかという頃、ようやくデビューできました。

――デビューしてすぐは、かなり苦労されたと伺いました。

宮坂:苦労というか、描くこと自体が苦しい時代でした。自分の描きたくない話ばかりを描いていたからでしょうね。なかなか連載のチャンスが掴めなくて、そのためにも担当さんの気に入る話を描かなきゃって思いが強くなりすぎてしまって。風向きが変わったのは、新しい担当さんとラブストーリーをじっくり作るようになってからです。少しずつ面白さや楽しさがわかってきて、読者の反応も良くなりました。

――ようやくご自身で描きたいものを描けるようになったんですね。

宮坂:そうですね。解放された感じがしはじめたのは『微熱少女』(1998年)の頃です。ラブコメや学園モノをやりたいと思いはじめたとき、また担当さんが変わって、コメディの楽しさやキャラを立たせるということを教わりました。それによって表現の幅がぐんと広がって、楽しく描けるようになったんです。でも、本当の意味で気負わなくなったのはごく最近で『薔薇色ノ約束』(2015年)からかもしれません。

――表現の幅が広がったということですが、先生は新連載が始まるたびに、テーマをガラリと変えてきますよね。難病の少女の恋から、大正ロマン、現代オフィスラブ…。これだけ多種多様な作品に取り組むのは、何か理由があるのでしょうか?

宮坂:描きたいものを描いているだけなんです。『薔薇色~』は、「愛してる」とか現代では言えないようなセリフをバンバン言わせたくて、あのような時代設定になりました。ああいうラブロマンスを誰かが描いてくれていたら良かったんですが、なかったので…自分で描くしかないなって。

▲気負わず好きなものを詰め込んだ『薔薇色ノ約束』
――「読みたい作品は自分で作る!」ということですか?

宮坂:そうです。『黒崎秘書に褒められたい』(2020年)も実はそうで。私、好きなアニメのキャラクターがいるんですが、彼の夢小説を探しても全然見つからないんですよ。こんなスパダリなのになんで…とショックを受けて「よし、描こう!」となりました。

――そうだったんですね(笑)!

宮坂:自分の描いたキャラには萌えないという方もいらっしゃるようですが、私は余裕で萌えます(笑)。少女まんがの魅力って、やっぱり“ときめき”だと思うんですよ。自分の思う“ときめき”に、読者が共感してくれて、またときめいてくれるって、こんなに楽しいことはないし、とっても嬉しいことだと思います。

▲好きなキャラの夢小説がなかったことがきっかけで生まれた『黒崎秘書に褒められたい』

●自分が興味があるものでないと意味がない

――長く続けていると、アイディアやネタ探しに困るといったことはあるのでしょうか? 引き出しを増やすためのインプットはどのようにされていますか?

宮坂:意識してインプットする、ということはあまりないですね。何度も枯れたと思ったことはありますし、実際「枯渇してしまったから休みたい」と言って、休ませてもらった時期もありました。

――休みを取ると、またネタが湧いて…?

宮坂:いえ、もっと休みたい気持ちになっただけでした(笑)。

――(笑)。

宮坂:新人の頃、担当さんから「とにかくたくさん映画を観ろ」と言われましたが、正直役に立ったかどうかわかりません(笑)。もちろん記憶に残っている作品もありますが、あまりまんがの参考になったとは思えなくて。興味もないのに、無理にインプットしようとしても意味ないことに気づいてからは、自分が興味を持ったものだけをチェックするようにしています。まんがも、読みたいものは自分で描いてしまっているので(笑)あまり読まないですね。

――先生が最近興味を持っているものはなんでしょう?

宮坂:今は『ディズニー ツイステッドワンダーランド』です。ハマるとどっぷりなので、空いた時間はひたすらツイステをプレイしています(笑)。あとは、海外ニュースやゴシップネタをチェックするくらい。

――ゴシップ好きとは意外です!

宮坂:大好きですね(笑)。

――そういったワイドショー的なネタが、作品作りに生かされたりするんでしょうか?

宮坂:どうなんでしょう(笑)。でも、相性はいいかもしれませんね。キャラクターの参考になりそうな個性的な人たちだらけですから。

――ちなみに作画で一番こだわっている部分はどこでしょうか。

宮坂:作品によっても違うのですが、『黒崎秘書~』だと、やはりスーツですね。「とにかく男はカッコよく!」という少女コミック(現Sho-Comi)時代からの教えが根底にあるので(笑)。

 
――黒崎秘書は、スーツ萌え女子にはたまらないキャラですよね。それに、先生が描く男性は手が大きくて体にもしっかり厚みがあって、そういった“男らしさ”も魅力だと思います。
 

宮坂:私、男の人の手が好きなんですよ。肘から手首に通る筋や、手の甲に浮かぶ血管は、自分の萌えポイントなので力を入れて描いてます。体に関しては、基本どおりしっかり裸から描きますね。服を描いてから手足を描く人もいますけど、見えない部分こそしっかり描かないとどうしても体のバランスがおかしくなるので。今でも私は、水色で素体を描いてから服を着せるという作画方法です。

――先生の絵の上手さというのは、そういった基本をおろそかにしない姿勢からきているんですね。

宮坂:ぼろくそに言われた時期がありましたから(笑)。いまだにデッサン人形を使いながら描いたりしています。

――作画で一番時間がかかるのはどこですか?

宮坂:表情です。目はもちろん、眉と口角は表情の決め手になるので、特に時間をかけて描いています。

▲スーツや手、仕草にこだわりが見える(『黒崎秘書に褒められたい』より)

●とにかく稼ぐしかないという覚悟

――SNSが日常のツールとなった今、作品の発表の場は以前より格段に増えました。それでも先生が、あえて商業誌で描き続ける理由はなんなのでしょう?

宮坂:より多くの人に見てもらえるということでしょうか。同人誌やpixivは、ライトな読者層にはまだまだ敷居が高いと思います。私自身はドラマ化という目標もあったので、そういう意味では商業誌の方が向いているのかなと。

担当編集:あと、創作に専念できるというメリットもあると思います。商業誌なら、会社が発表や書籍化、宣伝などすべてやりますが、個人だと全部ひとりでやらなければいけないので、時間は取られてしまいますよね。

――収入的なところはどうなのでしょうか。まんが家は儲かる仕事だと思いますか?

宮坂:ぶっちゃけ『微熱少女』の連載開始1年目ぐらいで、税理士が必要になって…『「彼」first love』(2002年)で年収が億にいきました。

――億! まんが家はやっぱり夢がある職業ですね(笑)!

宮坂:すごいですよね(笑)。でもこのときはいろんな事情で、とにかく稼ぐしかないっていう覚悟でやっていたので。

――『「彼」~』は、先生ががんで1年間の療養期間に入られて、その後の復帰第1作ですね。

宮坂:自分が入院する前に、父が急死したんです。折悪く実家がコンビニを始めたところで、残された家族は一日中働きづくめで疲弊しきっていて…。これは私がやらなきゃダメだと思いました。退院後「見ているのがつらいから、仕事はもう辞めて。私が働くから」と家族に告げ、家族を養う決心をしたんです。1年も休んでいたので不安はありましたが、私にはまんがしかなかったですし、まんがで稼げるという自信もありました。

――先生ご自身、闘病生活からの復帰ということで、体力面など大変だったのではないでしょうか。

宮坂:副作用もまだ残っていましたし、入院中に抗がん剤の副作用で腰の骨を折ってしまっていたので、座って描くのは本当につらかったですね。それでも絶対ヒットさせなきゃという思いの方が強かったんです。他の人がやってないことをやろうと少女コミックの傾向を徹底的に研究して、毎日必死でした。でも、目標の初版部数も達成できましたし、本当に良かったです。ただもう、その後は枯渇しましたね。やりきったという思いしかありませんでした。

▲決意の上執筆した『「彼」first love』は累計430万部の大ヒットに

●無理だと思ってから続けられるかどうか

――「まんが家になるのは簡単だ、続けるほうが難しい」ということはよく言われますが、先生もそう思われますか?

宮坂:そうですね。“続ける力”は必要だと思います。「もう描けない」というところから、どれだけ踏ん張れるか。私は担当さんにだいぶ助けられました。枯渇するたびにモチベーションを上げてくれるんです。描きたいものがないときでも「こういう話で、宮坂さんが描いたものを読みたいな」って言われると、私、その気になっちゃうんですよ。求められると描きたくなるので(笑)。

――ほかに、モチベーションを維持するための方法はありますか?

宮坂:私の場合は“エゴサをしない”ですね。『微熱少女』を描いていたとき、匿名掲示板をわざわざ見にいっては、叩かれているのを見つけて落ちこむということをくり返していたんです。最初は傷ついていたんですけど、だんだん「なんで関係ない人に的外れなことで叩かれて落ち込まなきゃいけないんだ?」と腹が立ってきて(笑)。見るのをやめたらすごく楽になりました。余計な意見に振り回されないことが大事なんだな、とそのときに学びましたね。逆に、ファンレターは本当に嬉しいですし、モチベーションにつながります。以前、大きな紙に私の作品のいろんな名場面を描いてくれた人がいたんですが、すごく印象に残っています。愛してくださってるんだなぁと感動しました。それに反応があると、やっぱり私の萌えって受けるんだ、同じ萌えの人がいるんだ! って安心するんですよね(笑)。

――では最後に31周年に向けての目標をお聞かせください。

宮坂:健康第一に、萌えるまんがを描き続けていきたいです。やっぱり、ときめきは忘れたくないですね!

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